2017年の振り返りを2018年にupするくらいには年末年始ゆっくり休んでいる小室です、今年もどうぞよろしくお願いいたします。あけましておめでとうございますという枕詞がなぜか苦手です。
さて、毎年恒例のeラーニング業界の振り返りです。ナレッジコモンズと並行してかれこれ6年間やっています。振り返る人の入れ替わりがほとんどないことからeラーニング業界の停滞感もちょっと垣間見えたりしますがさておき、2017年はeラーニング業界的にどういった一年だったでしょうか。
※いつものごとくのディスクレーマーですが、「社会人教育/企業内研修」がeラーニングの主題ですので、小学校~高等教育といった「文教」についてはさして言及していませんのでご承知おきのほどを。あと、これも毎年書いてる気もしますが、教育って特に日本の場合「全員が受益者だった経験がある」から「一億総評論家」になりうるわけで、それで結構話がとっちらかるのですがこの点も合わせてご承知おきください。
2017年のeラーニング業界サマリー
2017年はコンテンツの表現としてVRが目立った一年でしたが、業界全体として特にめだった大きな動きはなかったな、という印象です。EdTechはブームが終わった感があります。
2020年の教育指導要領改定をマイルストーンとしたプログラミング教育へのビジネスチャンスは各社感じているかもですが、文教市場の一部コンテンツベンダーさんたちが気づいている先行者利益をだれがどう突き崩すか、といったくらいでしょうか。LifeIsTechさん応援してます。
他、派遣法改正や働き方改革といった社会情勢の変化に伴う市場拡大の機会は2017年もう少し大きいかな思ってましたが、現場感としては「微々たるもの」でした。これからなのかもしれませんし、我々のあずかり知らぬところで大きなうねりがあるのかもしれませんが、結局eラーニングはまだまだ「研修コストダウン」の文脈のままなんでしょうね。
地味かつ超業界内輪な動きとしては、AppleさんによるFlashの余命宣告が、今年のGoogleさんにのChromeによるFlashデフォルトOFFで”死亡宣言”に至った感があります。これによってFlashで作られた企業内の教育コンテンツ(主にSCORM)の寿命が「使っているOS・PCのバージョンアップに完全に依存する」ことになりました。ではeラーニングコンテンツ制作会社さんに引き合いが増えたのか?というと、一部増えたとは思いますが、ネガティブな背景なので利用者側に予算がそんなについていなさそうで、ああみんな頑張ってくださいとしか言えません。やっぱりコンバーターもってる会社が潤うのかな?ロゴスウェア頑張れ(古巣のえこひいき)。
…といったところがサマリです。
以下はそれぞれを分解したり、あとは気が向くままに書き連ねてるだけですので、暇な方興味がある方だけ読み進めていただければと。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
eラーニング界隈からみても、VRは元気。
今年はVR×教育の話題がeラーニング業界的に一番多かったのではないかと。逆に他の話題がなかったとも言えるかもですが。
「VR=動画のリプレース」としてではなく、「VRの特性を生かした擬似体験による学習」という文脈的に、「安全体験VRトレーニング」 に代表されるVRコンテンツは、今後も増えていくでしょうね。とはいっても、eラーニングの利用社全体がVR導入とはならず、この例のような特殊・非日常系での活用が進むのではないかと。
テーブルにリコーのTHETA(シータ)を設置して商談現場を録画して「ハイ、VRの教育コンテンツでござい」とか言うのはもはや終わっていますし、プレスリリースが話題になった農業体験VRも「映像教育の延長上」という発想で、過渡期においては「目を引く」かもしれませんが、「セカンドライフ内での3Dアバターによる英会話」的な、一過性にすぎないフロー型コンテンツ体験に容易になりうる可能性もあるなあと。そういう意味では、ちょっと教育から外れますが、この「勝連城跡」VRコンテンツは、インタラクションという意味でVRの特性をうまくつかっていらっしゃるなあと。
教育コンテンツベンダー各位においては、VRの残念体験を極力減らし、高単価の予算が今後数年続くような提案に注力くださいますことを願う次第です。
EdTechブームの終焉
いよいよもって話題としても耳にしなくなってきましたねEdTech。投資対象がビットコインに代表されるブロックチェーンやその先にあるFinTech、猫も杓子もAI、ロボットはいまいち市場の盛り上がりを感じないけれどセンシング系は今後が期待できるIoT関連、そちらに流れたからなのかな、といったところでしょうか。AIの教育利用とかはもう言及する気力がもてません。
一瞬「エデュチューバー」みたいな単語をどこかのメディアで目にした記憶がありますが、それってカーン・アカデミーさんと何がちがうのでしょうか?結果定着もせずホッとしました。
そもそも教育産業(特に社会人教育)は日本では儲からないですからね。Web系大手さんがMOOCsに参入していましたがROIが良いといった話はついぞ耳にしません。EdTech系に参入した内資系企業さん特有の、Googleさんみたいにスッパリすぐ撤退しない優しさというか社会的使命感というか、そういうノブレス・オブリージュな思想は大好きですが、●●ラさんの謎な書籍系コンテンツプラットフォームみたいに「そもそもビジネスモデルの設計からして見直しが必要では?」事例が多いので、つまるところステークホルダーがどこまでコミットし続けるかにサービスの寿命が依存している世界な気がしてなりません。
教育ベンチャーのEXITはバイアウト一択に?
アオイゼミさんもZ会が買収しましたね。関係各位おめでとうございます。裏を返すと、教育ビジネスで起業した際のゴールとしてIPOはやっぱりハードル高いんでしょうね。プレイヤーとしては、おそらく国内の教育ベンチャーとして一般からは将来が有望視されていそうなスクーさんも、噂レベルですが●億くらいのビジネスの規模感とのことで、VC側からのニーズなのか、それとも社会人教育のマネタイズの難しさからか、企業研修市場でシェアを取りたい意向がおありのようで、そうした動きをお見受けします。そっちはレッドもレッドですが、まあ確かに予算はあります。ただその中で“嚢中の錐”のごとく突き抜けるには、コンテンツもプラットフォームもB2Cよりすぎているので、どうなることやら。中の人、応援してます。
売却先としては、ベネッセさん・Z会さんといった古参の教育会社さんと、あとスタディサプリの良いUXで文教市場を席巻しているリクルートさん、多角化の一環としてベンチャーの買収が得意にみえるKDDIさん、これら4社がEdTech系起業家さんたちのベンチマーク先として定着していそうな印象です。
語学ビジネスの今後
ロゼッタストーンがなかなか素敵なプレスリリースをだして一部の株クラスタをざわめかせていましたが、たしかに機械学習のおかげで機械翻訳はレベルアップしてかなり実用に耐えうる品質になった感じがします、特に英語→日本語。でも、日本語→英語はインプットが多様すぎてまだまだこれからで、そこにまだビジネスはあるものなのでしょうか。あとは専門分野の尖った翻訳ニーズでしょうかね、医療の分野とか。
これらの技術主導の語学ビジネスの有り様の変化に対し、語学教育会社さんはどう乗り越えていくのでしょうか、各社さん頑張ってください。私はGoogleのリアルタイム翻訳機を入手する方向です。
SCORMの向こう側
TinCanAPIってどうなったんですか?あ、いまはxAPIか。どうなったんでしょうね?もはや1独自形式に過ぎない感じですね。
SONYさんがブロックチェーンの教育利用を実証実験するとのことで、いっそのこと履歴管理系はそういう大きな動きに巻き取っていただくほうが良いのではないかなと考えます。それはそれで果てしない規格統一の動きになるでしょうし、そもそも今の個人情報保護法的に、学習履歴のポータビリティがどこまで成立するのかはなはだ疑問ではありますが。
教育システム構築に際してSCORMについて教えて欲しい、といった相談が今年もありましたが、「気にしないが正解です」のでご承知おきください。詳しい理由等知りたい方はお気軽にご相談くださいませ。
「アプリで」学ぶ、というアプローチが減った。
私のボスがヘルスケアアプリ関連のインタビュー企画で言及していましたが、アプリって維持コストも馬鹿にならないんですよね。アプリに限りませんが。
まあ、ようやっと事業者側にそうした事実の理解が浸透しだしたのか、はたまた32→64bitへの移行などで予算編成上“煮え湯を飲まされた”「と思ってる」事業者さんが増えたのか、「教育をアプリで変える」といった技術中心でのアプローチが減ってくれた感が2017年は強く感じます。
そもそも利用開始にかかる手間もアプリはなかなかハードルが高いわけです。実際に学習関連アプリの利用促進の相談をちらほら頂きますが、スマホで/PCで学ぶ、という体験の中でも「アプリで」となると、階層がさらに深くなるんですよね。理由はいたってシンプルで、
- 認知→利用開始
- 認知→インストール→起動→利用開始
この「インストール→起動」する「手間」に見合うインセンティブが用意されているか、となると、ゲームやエンタメ、もしくはC2Cアプリと違って、教育・学習系はなかなか難しいのではないかと。インストールしても試験に受かるとは限らないわけで。いやはや難しいです、アプリ。
生涯学習的な動きはどうなるのだろうか。
メルカリさんがcyta的なプラットフォームを出してきますね、たしかティーチャだったかな。あれほど大きなプラットフォーマーが参入することで、StreetAcademyさんとかアオリくうのか、それとも業界全体が盛り上がっていくのか、はたまた某「スキルのフリマ」的に情報商材屋が跳梁跋扈するだけなのか、2018年は座して静観していきたいと思います。
LMSベンダー各社の動き
汎用的なLMSは、我らがD2Cのetudes以外、特に生まれた気配はないです。一方で、CLIPLINEやTANRENといった分野特化型のプラットフォームが元気な印象。
汎用LMSは使い方を利用者側が検討しないとならないので立ち上げの腰がどうしても重くなってしまいますよね。で、分野特化型は課題解決軸なのでMSP(MinimumSellingProducts)の思想で(汎用LMSと比較して)立ち上げやすく※、利用者側も「導入or NOT」という判断がしやすくなり、導入効果も測定しやすいんでしょうね。そしてこの観点から振り返るとD2Cさんよく参入したなあ、マジ卍。(※小室注:TANRENさんのような分野特化型の新規事業開発が容易とかそういう意味ではまっっっったく無いです。あくまで汎用LMS構築の検討の“幅”が“相対的に”広いだけであって、新サービス立ち上げの大変さを軽視している意図ではありません。)
そうしたトレンドに流されず、古参LMSベンダーは、粛々と製品開発を進めている、といったところでしょうか。ロゴスウェア頑張れ(えこひいき)。某社みたいに「3000万ユーザ突破」とか「それどこのFacebookですか?」みたいな残念な宣伝に頼らないままでいてください(“のべ“契約ユーザ数って各社どんだけ水増し可能なのよ)。
etudesは、それこそプロマネの前川さんが2011年に「理想のLMS」とは何かを全然職の立場からプレゼンしたその内容を具現化すべく尽力されており、こちらもえこひいきしたいと思います。良いLMSです。汎用的。
やっぱりホワイトカラーは学ばない。
教育業界のプレイヤーならご存知でしょう中原淳先生のブログで興味深いエントリがありました。
昨今、「学び直し」が政治の世界で話題になっているようです。「学び直し」も大切なのですが、「学び続け」がより大事なのではないかと感じますが、いかがでしょうか?
ほんこれ。
個人的に2017年後半からUXデザインの一技法であるHCD(人間中心設計)を産業技術大学院大学で学んでいますが、これも5年10年すると「えっ、当然の考え方でしょ」となるような気配を右脳的に感じております。
この「学び続け」において、eラーニングはまだまだ選ばれるプラットフォームに成れていないな、VHSのビデオカセット的な「知識のインストール」の着想=呪いから業界全体が離れていかないとなぁ、と、2017年もまた、思い返した次第でした。
だいたいこんな感じでディスカッションすること数時間でした。
そして毎年打ち上げは四ツ谷のしほ瀬。2018年、eラーニング業界が社会人の学びに貢献しますように。
※iPhoneを修理に出して写真がないので参加者各位のFacebookから拝借。多謝。