小室です。産業技術大学院大学(産技大、AIIT)人間中心デザインOB/OG Advent Calendar 2018の、18日目の記事として、はじめてのアドベントカレンダーとしてのブログです。アイキャッチは安藤先生の「UXの教科書」参照です。
産技大で2017年10月~2018年3月まで、HCD(UXデザインの技法の一つ)を学んできました。産技大に通うまでは、ウェブ解析を武器としてのディレクション・コンサルティングでしたが、産技大以降は、もう一方の手にUXデザインのメソッドを持って、双刀使いでお客様の課題解決のお手伝いをしています。
双刀使いになってから9ヶ月くらい経ち、気づいたこととしては、「HCDプロセスをクライアントワーク、とくに中小企業向けにフルで回すのは、相当に困難」だということです。
※以降長文です。結論は「それでもがんばる」です。
中小企業向けのクライアントワークで、HCDプロセスを回す難しさ
いくつか要因はありますが、次の3つが挙げられます。
1)「Web」という時点で、ビジネスのステージが結構進んでいる。
プロトタイピングやサービス設計があからた済んでいて、そこそこビジネスとしての検討が進んだところで「ちょっといいですか小室さんウェブの相談が…」となります。
お声がけいただくのは本当にありがたい!のですが、王道のHCDプロセスであれば、例えばユーザーの「利用状況の把握と明示」が済んでいない場合は「ユーザーの利用状況の把握」に戻って再度リサーチするわけですが、そういうわけにも行かないのが世の常です。すなわち、「次の失敗はなかなか許されない担当者の背景」があるため、HCDプロセス的な「1つ前に立ち返る」ご提案が、そもそも困難な状況だったりします。
2)時間もリソースも予算も足りない
身もふたもないですが、HCDプロセスを真面目に適用しようとすると、
- ユーザーリサーチ
- 体験価値の言語化、提供価値との整合性
- ビジネスモデルとしてのキャッシュポイントの設計や改善
- 普通にウェブ屋としてやるべき3C分析やユーザーセグメント(as-is/to-beのペルソナ作成)
- ステークホルダーマップの作成
- 最近学んでいるコンセプトダイアグラムを通じた態度変容の仮説立案
- IA(情報設計)
- プロトタイピング
- 構築
- 評価、分析
- 改善プランニング
などなどを、1~2名で、ウン十万で?いやいやいやいや、、、無理ゲーです。
3)クライアントの組織体制
これは「恵まれた状況にあること自体がレア」いう前提があります。それはなにもクライアントのリテラシーがどうこうという話ではまったくなく、
- 現場担当者の置かれた状況(特に時間軸)
- 意思決定権者の思いと現場の乖離
- 意思決定権者と現場の思いが一致していても、組織体制としてのUXデザイン推進が困難
などによってHCDプロセスを回しづらい仕組みができあがってしまっている、とくに一番最後の状況がいちばん多いな、という印象です。
難しいを書いてるだけでは不毛なので、まずは課題の洗い出し。
会社/自分のブランディングに改善余地あり。
「とりあえずWebのことなら小室に相談すればなんとかなる」といった認知はいただいてますが、「”早めに”」ではない、という所感です。つまり、サービスデザインやプランニング・ペーパープロトタイピングといった上流工程においても相談できる、という認知をされていない点が、これは解決可能な課題として考えられます。
上流もお手伝いできますよーやってますよー、という見せ方をする必要があるのですが、それすなわち会社のブランディングですね。ああ。
実際、HCDプロセスを回そうとする場合、どれだけ予算を削っても、金はかかります。
ユーザーリサーチ、モデリング、ペルソナからのジャーニーマップ、、、ここまでやったとしても、モデリングした情報を「運用」して「定着」させないと、UXデザインを取り組む意味があるのか、というと、正直難しいな、という認識です。
クライアントがどういうビジネス環境にいるのか、にもよるかもしれないです。資金調達がイケドンなスタートアップの方が(短期的かつ持続的な数値上の成長を対VCに説明する必要はあるものの)実現可能性は高いかもですね。
クライアントの組織体制は、当然ですがもうどうにもならない。
経営コンサルで入っても、求められる文脈が違いすぎるので、無理ですね。AIIT通われたらどうですか?というくらい?でもAIIT自体が超狭き門になっている昨今、ぐぬぬ。。
と、身もふたもないこと書いてますが、AIITで(たしか)長谷川先生が講義中に指摘していたように、「UXデサインが推進できるかどうかは、つまるところ組織に依存する」ということに目の当たりにしております。
言い換えると、クライアント側の意思決定権者が「HCDプロセスでいこう」という判断ができる、つまりトップダウンでないとUXデザインはクライアントワークで実践されづらい、ってことなのかもしれません。
そんな状況でも、我々受託屋が発揮できるUXデザインの提供価値は?
それはきっとあると考えていて、いまは
- 「サービサーの提供価値を適切な解像度で言語化すること」
- 「ユーザーの体験価値を仮説ででも言語化すること」
- 「提供価値と体験価値を近づけるためのアドバイス」
の3点で、この3点をブレずにクライアントに訴求・啓蒙し続ける続けることだと考えています。
あとこの先に、HCDプロセスをモジュール化して、顧客の状況に応じてパーツパーツで提供する、そんなイメージもしてます。
ウェブ屋がUXデザインを提案する文脈とは
クライアントワークでかつウェブ屋をやっていると、レイトステージでの相談になるため、HCDプロセスの「計画」にまで立ち返ることは至難の業です。でも、必要ならば「立ち返りませんか?」という提案をすることは、顧客にとっても必要だし、ユーザーにとっても「良いサービスを見つけて受益者になる」ためには必要で、そういうタイミングだと見極めたら、提案を通じてアラートを挙げることも受託屋の提供価値かなと考えています。
でもまあ、そういうアラートをあげると、「じゃあ他当たるわ」というクライアントもたまに出てきます。たまに。これはもう、致し方なし。そういう「提供価値だけ考えていて、ユーザーの体験価値を極論”ないがしろ”にするようなサービス」は、どのみちコモディティ化して競合に淘汰されるわけで。言い方きついかもですが。もちろん、私の見極めがずれていることもありますが、ウェブ大好きなディレクターとして15年くらいやっていると、流石に土地勘というか嗅覚というか、「あーこれはすごいサービスだ、いいビジネスモデルだ」というものと「いや、、それ新規性あるとかいいますけど、A社もB社もやっていて撤退戦してるビジネスモデルですよね」というものの目利きは、出来ます。
うまいお米かどうかは人によるけど、まずい米は分かってしまう、みたいな。もちろんそういうビジネスがハネることもあるかもしれませんけどねー。ただ、HCDを学んだ端くれとして、ユーザーが求める体験価値の定義があまりにずさんでも成功してるサービスって私は知らないですね。後付けでも、ユーザーの体験価値がしっかり有意なものが今なお生き残っている。
せっかく相談に来てくれた方にはあらぬ方向に進んでほしくない、けれど、どういう方向性に進むかは、受託のウェブ屋は結局外野でしかなくて、ビジネスオーナーが最終的に納得していれば、あとは好きにすれば良いんじゃないですかね?とも思います。
客を選べ、とかそういう話、ではなく。
こう書いてしまうと、クライアントワークとしてHCDプロセスを回すためには「客を選べ」ということに尽きる、という話に読めてしまうのかもですが、決してそういう意味ではなくて、ウェブ屋はレイトステージだけど、HCD的な目線を持つことは絶対的に必要で、HCDの観点からの提言・提案はすべきで、その積み重ねが「普通のウェブ屋じゃなくてね、色々相談に乗ってくれるウェブ屋だよ」というブランディングにつながるのじゃないかなーと最近考えています。
ギルドワークスさんやネットイヤーさんとかUXD的に有名な受託会社さんたちってそういう積み重ねを私なんかよりはるか先に、ずっと地道に継続してきての今なんだろうなあ、としみじみ思います。
ブランディング大事、みたいな締めっぽくなっちゃいましたが、HCDの学びに終わりはありませんね。いやはや。そんなこんなで、小室の最近のおもうところでした。
なんだかんだ書きましたが、クライアントのサービスの提供価値を考えたりユーザーの体験価値を言語化したり、HCDプロセスを分解してクライアントの課題解決に部分的にでも貢献できているのかな、役には立ってるかな、と思います。曲がりなりにもご依頼いただき、継続いただいているのはその証左かなと。
そんなわけで一緒にHCDプロセスをまわしてくれるディレクターさん探してます。私のメソッドであればいくらでもどこまでもシェアします。
ご興味あればFBでもtwitterでもなんでもいいので、コンタクト下さい。お茶しましょうランチしましょう食事しましょう。