- 薬はいったいどのように作られる
- 薬が市場に出るまで
- 薬が市場に出た後は
- 製薬業界を支配する「薬事法」ってどんな法律?
- MRは実際のところ具体的に何をしている?
などなど、製薬業界はいったいどんなところなのか、現役の「なかのひと」大塚英文さんにお話いただきました。
製薬業界は薬事法が全て
薬の全ては薬事法で定められている。そのため、製薬工程の一連の流れにおいては、業界は国を意識せざるを得ない。
薬は「処方箋の有無」で大別
- 処方箋:1950年代にアメリカで薬害が発生し、制度化された。
- OTC:処方箋から一般薬にシフトしたもの(代表例=ロキソニン)。そして、処方箋薬の方が市場が大きい。
初期開発(創薬)
最近の製薬会社は、化合物候補を選定していない。大学やバイオベンチャーが化合物を選定し、それらを製薬会社が買い上げるのが最近のロールモデル。この流れが生まれたことにより「TLO(大学内の特許管理組織)」ができ、大学は「調査研究で生じる特許権収入」を得ることが可能になった。
薬の承認
- 医療当局が薬の許認可権限を持っている。
- 1つの薬が承認されるまでにかかる費用は約数千万円~。
- 日本は、医療当局の審査人数が他国と比べて1/4~1/10しかいない。
※ドラッグラグ
審査人数の少なさは「ドラッグラグ(海外に比べ承認に要する時間がかかる)」の主要因であると言われており、製薬会社がビジネスチャンスを逃すのボトルネックでもある。だが、審査人数が多いアメリカでも、薬害が多発していることから、ドラッグラグが百害あって一利なし、というわけでもない。
薬価
保険会社から医療機関へ支払われる、国が定めた薬の価格基準。既存の治療法と比べてどれだけ効果があるか、が、薬価の決定に強く関与している。したがって、初期の薬価をいかに高く設定するか、が、製薬会社の勝負どころ。
薬価を定める2つの方式
- 原価加算方式(開発にこれだけかかったから、この金額で売りたい)
- 類似薬価方式(ジェネリック。先発品の70%で試算)
※国は「医療費の圧縮」を目的に、ありとあらゆる手段を使い薬価を下げようとしてくる。薬価は一度決まったらほとんどの場合は変わらず、時間の経過とともに、必ず、値下がりする。
アメリカ
アメリカでは、薬においても市場原理が働き、薬価は上がる。市場原理が働く、ということはつまり、後発品が出た瞬間に薬価が下がる。その為、「特許期間の延長」がとても重要になり、それを実現するためプレーヤーが結託する結果、たいていの薬価は高くなる。
保険制度
日本の保険制度は、薬を売れば医療機関がもうかるため、患者は薬漬けになる可能性があり、さらに医療費の高騰に直結している現状。
一方アメリカの保険制度は、「マネージドケア」と呼ばれる”医者は選べないが保険会社が医療費用を補てんする”という「定額医療」の保険システム。このマネージドケアにおいて重要なものとして「フォーミュラリー(”この病気はこの薬を処方すべき”という標準治療リスト)」があり、これに薬が掲載されるかどうかが製薬会社の最重要ファクター。
つまり、アメリカの医療は、医師ではなく「保険会社」が大きな権力を握っているのである。※さらに参考までに、アメリカでは「これからかかる医師がどこの保険会社に属しているか」(どのフォーミュラリー=薬を使えるか)を正しく把握していないと、適切な医療を受けられない場合が生じる。
参考:日米の違い
- 日本~医療において、医者が大きな力を持っている。つまり、医者>製薬会社>患者。
- 米国~医療において、保険会社が大きな力を持っている。つまり、保険会社>製薬会社>医者>患者。
流通の仕組み
製薬業界はビール業界と似ている。多品種、少ロット、高額商品。さらに、「モノ」と「情報」がセットになって運ばれる。その運び屋の役割を担うのが、MR。
MR
MRは医師への情報提供のみを行い、販売は行わない(※)。
全ての情報は、当局が公開してる医薬品医療機器情報HPから入手可能。MRは、医療機関の代わりに効果や安全情報を集め、科学的データに基づく公正な情報として医師へ伝える役割を担っている。その中でMRが属する製薬会社の薬を売る、という行為については、MRのパーソナリティに依存するところが大きい。
※医療機関と製薬会社とが直接価格交渉をすることは、独占禁止法で禁止される。製薬会社⇒卸⇒医療機関、という商流(卸=MedicalSpecialist=MS)。
シェアオブボイス
MRが医師に対して情報伝達した量/回数が売上に正比例する、という考え方。つまり、MRに求められるものは「医師との相性」。
IMSジャパン(製薬業界の格付け企業)がシェアオブボイスの調査を独占。
Q&A
Q:ドラッグラグは現状どれくらいの時間差として存在している?
A:アメリカは6~12、EUは12~18、日本は18~30ヶ月。ただし、日本も徐々にスピードアップしてきてはいる。
Q:薬事法はどこの国でもある?
A:ある。若干の違いはあれど、国が法令で定めている。
Q:アジアの承認の流れは?
A:たいていはアメリカやヨーロッパの当局が承認されたら良しとしている。日本は日本独自の審査をやっている事自体が凄い。
Q:優先審査とは?
A:海外で流通している新薬を早く承認する必要がある場合、6ヶ月の前倒し審査が可能(ブリッジング)。
Q:薬で一番重要なメッセージは?
A:「どの病気に対して効果があるか」が重要ポイント。比較は「誹謗中傷」に該当し、他社から誹謗中傷を受けた場合、MRは製薬協にその事実を訴えることができる。
TIPS
- 製薬業界は自主規制と政治の世界。
- 製薬会社が作成する資料にも薬事法の細かい定めはあり、閲覧用と配布用とでは掲載可能な情報の内容が異なる。
- 中国は治験届の受理まで1年間もかかり、全体的に遅い。さらに、中国のCROは安全性においてクオリティに疑問点が…(正直に申告してる?)
- バイオベンチャーの背景にあるのは「オーファンドラッグ(5万人未満の患者=難病を対象とした薬)」。オーファンドラッグは当局からの助成金や優遇が大きいため、ビジネスとして成立しやすい。
その他、一連の流れを詳しくスライドにまとめて頂いており、かつ公開いただいてます。ぜひご一読を。
大塚さんのスライドはこちら⇒MR(Medical Business)_20110307 KnowledgeCOMMONS vol.1
補足:これからの製薬業界=「アウトソーシング」
初期開発(創薬)において、製薬会社から大学へビジネスを発注する流れがすでにできていることもあり、今後の製薬会社は「投資会社」の性質を強めていくと推察。会社内においては、PMDA(当局)との折衝を行う「薬事部(RegulatoryManager)」以外はほとんどがアウトソーシング可能。実際、MRにもアウトソーシングの流れは強まりつつある(コントラクトMR:全MRの20%位に増加)。
感想・コメント
製薬会社=投資会社化~ITと相似的。スピードとリスクのトレードオフなポイント(USとJPの比較)⇒医療業界には「サービス=Free」というイメージを一般に持たれている。
承認以降の流れが勉強になった。対比が理解しやすかった⇒USにも良いところだけでなく悪いところがある。
製薬業界の根本を流れで理解できた。アメリカ化怖い。
業界構造を知れたのが初めて。ビジネスとして興味深い
2011/03/07
於:カフェミヤマ(渋谷公園通り店)
講師:大塚 英文 さん