製薬メーカーは、一体どのようなマーケティング戦略に基づいて薬の開発から販売を行っているのか、そして今後どのような方向に向かっていくのか、なかのヒトに話して頂きました。
前回、前々回のおさらい
1.マーケティングとは「将来の売上/利益を作るための、売れる仕組みづくり」である。
- 充足されてないニーズを満たす
- 潜在的な収益性を高める
などなど…、理想のマーケティングは「販売を不要にすること」である。
2.戦略とは「何をしないか」を決めることである。
何を捨てるのか、我慢するのか。ともすれば営業は戦術(局地戦)で戦おうとしがちなため、戦略(大局)をみているマーケティング担当とぶつかりやすい。
上記を踏まえ、はじまりはじまり。
製薬メーカーにおいては、「どんな薬を作るのか」が最重要戦略。
薬の開発のステップ
- 320,000の化合物から候補を探索
- 3,200の化合物の、対動物への非臨床試験
- 対人間への27種類の臨床試験
- 80の新薬の販売(上市)
2の臨床試験のステップ
- Phase1~安全性の担保
- Phase2~投与量の担保
- Phase3~有効性
製薬業界においては、2の非臨床試験から3の臨床試験に移れる、と判明したところから、マーケティングが開始される。
薬価とマーケティングの関係
薬は「一般薬」(ドラッグストアで売ってるもの)と、「処方薬」(病院または薬局で、処方箋に基づいて入手するもの)の2種類が存在している。それぞれの市場規模は
- 一般薬 7,000億円市場
- 処方薬 8兆円市場
となっており、市場規模的にも、製薬メーカーは処方薬を開発したがる。ただ、処方薬の費用は国が負担することになるため、薬価(薬の価格)は当局が決定権をもっており、さらに、2年おきに「必ず」値下がりする。
つまり、上市する際に薬価を高く設定できるかどうかが、製薬メーカーの最重要事項である。
薬価を決定するポイント
厚労省による薬価の決定には、新規性や希少性など「イノベーション性」が重要視される。
ある薬が開発された。効果が高くとても良い製品なのだが、類似の効能を持つ薬がすでに市場に存在していた。そういう場合は、既存薬と比較されてしまい、薬価は必然的に低くなってしまう。
これはマーケティング時に的判断を開発時に行われなかったが為に生じるのであり、今後は「目利き=薬の事業性評価(=優秀な研究機関とのコネクション)」が製薬メーカーのマーケティング上、重要になってくる。
薬のセールス活動
販売計画
事前の市場調査をもとに、数値化された目標が設定される。
- どういった影響力を持つ、
- どれだけの医師に対し、
- 何名のMSL(およびMR)が
- どれだけの頻度(日/年)で接触するか
※SOV(Share Of Voice)=MRが医師に対し自社製品について伝達(コール)した回数。これを接触としてモニタしている。
製薬メーカーにとっての「良いお客さま」とは「自社の薬をたくさん処方してくれる医師」
薬が売れるのには、製薬メーカーの営業が医師にプレゼンするよりも、影響力がある医師が他の医師に紹介することが、とてもとても効果を生む。そのため、処方量が多い医師を製薬メーカーはマークし、講演会や勉強会を行っていただくことで、認知を広める。
ただし、薬の情報については以下の様なコンフリクトが生じている。
- MRは自社製品を伝えたい
- 医師は他社製品も知りたい
この中で、MRは他社製品については誹謗中傷に該当するケースもあるため、言及できないことがしばしば存在する。その状況を回避するため、客観性の高い情報を学術的に医師に伝達する「MSL」が、製薬メーカーの中でプレゼンスを今後高めていく傾向になる。
製薬業界の今後
患者数が多い疾患に対する薬はだいたいできてしまっている、それはすなわち「薬価が高く設定できない」という状況であり、製薬メーカーとくに大手は新たな薬を開発するモチベーションをあげきれない状況にある。
そうした現状において、今後はおそらく化合物開発を製薬メーカーがすることは減少し、ベンチャーや研究機関など「創薬」メーカーを製薬メーカーが買収する、という構図になると考えられる。また一方で、ニッチ市場(患者数がXX名以下の「難病」)に対する薬の開発はある意味ブルーオーシャンとも言える。
ただし、製薬メーカーが忘れてはいけないことは、そもそも薬のゴールとは「患者の病気が治ること・良くなること」であり、その観点から製品開発を考えることの重大性を再認識する必要がある。
大塚さんのスライド⇒MR 3rd(Medical Industry Marketing)_20110907 KnowledgeCOMMONS vol.6 from KnowledgeCOMMONS
2011/09/07
於:カフェミヤマ渋谷東口駅前店
講師:大塚 英文さん