経営者のための「税務『調査』」をテーマに9/17(水)、35回目となるナレッジコモンズを開催しました。
税務調査とは、納税者の申告内容が正しいかどうかを税務署・国税庁からチェックを受けることをいいます。
伊丹十三監督の大ヒット映画「マルサの女」ってありますよね。社会の悪(要は脱税)をバッサバッサと切りまくる“マルサ”が主人公の映画です。マルサとは国税局査察部が行う強制調査のこと、これも税務調査の一種なのであります。ある日突然やってくる税務調査。不意打ちされるとどんなにキレのよい経営者でも、「怖い」「面倒」「どうしていいかわからない」と思考停止、その後放心状態に…。
でも、ただただ遠ざけるだけではなく、「税務調査」にもふだんのお仕事でやっている「マーケティング」を当てはめることができる!
という切り口で、浅川綜合会計事務所の浅川弘樹さんにお話いただきました。
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
「税務署や国税庁のスタッフは、どんな考えのもと、税務調査にやってくるのか」
まずは税務調査官の属性を知ることからはじめましょう。
税務調査官は公務員、階級社会に属する「組織人」です。調査官は上司から調査件数で評価されます。具体的には法人実調査率10%が目標となっているようです。
このような調査官が調査の対象として選びがちなのが、決算上の勘定科目の大きな変更があった企業、あやしい取引に関する情報のある企業、ブラック企業といわれているような企業、タレ込みされた企業、などとのこと。優良(すぎる)申告法人も対象になることがあるようです。
税務調査官の戦略と戦術
申告の内容で指摘を受けた場合、税務調査官は「修正申告」、もしくは「更正処分」の対応をとります。
- 修正申告:納税者に修正申告書を提出してもらう。
- 更正処分:納付税額が過大もしくは過小である可能性があるため税務署が改めて納税額を計算しなおし、納税者に対応を通知。
「ここに税務調査官の戦略と戦術があるんですよ」と浅川さん。 税務署はできれば修正申告に持ち込みたいわけです。
なぜなら、修正申告は、要は「自白」ということになりますので、撤回されにくい、修正のための時間もかからないので、「件数」を稼げて自身の評価につなげやすい。 一方、更正処分は、納税額を修正するための法的理由を考え、考える手間、資料作成の手間がかかる、時間もかかる。
調査官も私達と同じような組織人です。手間がかかり結果についてリスクもある選択肢はなかなか選びたがらないのは心情ですよね。
税務調査官が来てしまったら!?
企業が彼らを受け入れる際に、2つのポイントを抑えておくとより良い結果に繋げられます。
1.心得と基本的な対応策
- 基本的に丁寧かつ和やかな対応をする。
- 雑談にも「意図」があるためなるべく乗らない、できれば聞き手にまわること。
- 即答をさける
- 資料を要求された場合、当該資料をすぐに提供できる状態であっても一旦持ち帰り、経理担当者と相談する
- 質問内容や、調査官との会話は記録に残す
そして、堂々とした態度で臨む!といったことが、重要です。
2.ワンランク上の交渉術
税務調査官との交渉が思うようにいかない可能性がでてきた時、覚えておきたい3つのポイントをご紹介いただきました。
- 「交渉を長期化させる」
- 「更正処分のリクエストをちらつかせる」
- 「経営者に午後出張してもらう」
の3つです。
1.交渉を長期化させる
通常の調査は長くて3ヵ月。それ以上は「ノルマ(件数)」に影響するので調査官も焦ってくる。また、税務調査官は7月に異動があるため、それまでに抱えた案件をすべて終わらせたいと思っています。
2.更正処分のリクエストをちらつかせる
手間と時間がかかり、苦手な税法に踏み込まなくてはいけない更正処分は「嫌がる」のです。
3.経営者は午後出張する
税務調査の糸口の9割はなんと経営者のうっかり発言!午前中に会社説明だけしてもらい、午後は出張にでかけていただき、その後の対応は税理士や責任者に任せていただくのが得策です。
税務調査官も一介の組織人であり、人である。時間的制約のなかで成果をあげたいし、評価もされたい、ということでしょう。彼らとはwin-winの関係とまではいかないですが無駄なく、卒なく、そして損することなく、調査をクリアできると良いですね。
経営者の皆さまの心が少しでも軽くなったようであれば幸いです。