「これからのEdTechの話をしよう」勉強会レポート

「もし、タイムマシンがあったとして、100年前の医師が現代に現れたら、多くの機材に囲まれ、おそらく医療行為をおこなうことはできません。しかし、同時代の教師が現代に現れても、問題なく授業をおこなえるでしょう」という笑い話があるほど、長く教育環境に大きな変化はありませんでした。

今回のKnowledge COMMONSは「『これからのEdTechの話をしよう』~EdTechで変わる教育の今とこれから」というテーマ。講師にデジタルハリウッド大学大学院の教授である佐藤昌宏(さとうまさひろ)先生をお招きし、参加者とのディスカッションを交えながら、教育×ITの現状についてお話いただきました。 

ところで2003年に刊行された”eラーニング白書 2003/2004年版”では、先進学習基盤協議会(ALIC)によると「eラーニング市場は2010年には6,500億円の規模まで成長する」と試算されていましたが、現状の市場規模はその予測の10分の1程度でしかありません。 なぜ教育分野および現場には、テクノロジーがなかなか取り入れられないのでしょうか。

■そもそも、EdTechの定義とは

eラーニングは「情報技術を用いた学習」のことを指しますが、90年代後半から見ていて、「劇的に」学習効果を上げたとか、教育費を下げたとか、学習方法を変えたとは言えないと思います。 そんな中で、eラーニングという言葉ではくくり切れない技術や手法がどんどん出現/発達し続けてきたのです。 その背景には、

  • 通信インフラ(通信の高速化や低価格化)
  • デバイス(モバイルファーストの動きやタブレットの普及など)
  • SNS
  • データベース(ビッグデータ)
  • IoT(Internet of Things=あらゆるものがインターネットとつながること)

などが挙げられますが、なんとこれらはすべて過去10年以内の話! 

その一方、テクノロジーの発達により、

  • ソーシャルラーニング
  • モバイルラーニング
  • アダブティヴラーニング(ビッグデータ活用により実現される個人に最適な学習)
  • ファブラーニング(ものづくりから学習をする手法)

などが登場しましたが、たとえばファブラーニングなどは、従来のeラーニングという言葉では、説明しきれません。 

そこでEdTechは「デジタルテクノロジーを活用し、教育という仕組み、産業(ビジネスモデル)、学習スタイル、コンテンツなどにおいてイノベーションを起こすムーブメントのこと」と定義します。

■現代の教育や学習において大切なこと

教育現場における“教え方”を定義する法律は存在しません。学校でどういった教育をするかは本来自由であるのに、学校や教師たちが慣習などに固執し、そんな環境で若手は新しいことに挑戦しづらくもなっていることはないでしょうか。

実際、検索エンジンやWebサービスの出現やモバイル端末の普及などにより、学習において「答えを導きだす」こと自体の難易度や重要性が低くなってきていると考えられます(入試の最中にYahoo!知恵袋が使われた事件などもありましたね)。

現代の学習において大切なことは「答えの意味の本質を考えること」なのではないでしょうか。

■EdTechは薬と同じ?「どこに効くのか」

学習者を4つに分類し、それぞれ

  1. 学習意欲が高く能力が低い「模範的学習者」
  2. 学習意欲も能力も高い「優等生」
  3. 学習意欲は低いが能力が高い「やればできる人」
  4. 学習意欲も能力も低い「劣等生」

と定義してみます。 

アクティブラーニング(学習者自ら課題研究やディスカッション、プレゼンテーションなどの能動的学習を取り入れた授業・講義形態)や、一般的な教師の指導や教え合いといった手法は、特にCやDのような学習意欲の低い人にも効くものだと考えられます。

しかしながら現状の教育において、Aの学習者に対しては何か特別なことをしていたでしょうか?彼らに対しては「放っておいても大丈夫」という対策が、ほとんどではないでしょうか?

EdTechはAやBの学習者に対し、好きなことを青天井に学べるパスポートを与えたといえます。例えばカーン・アカデミーやTEDなどのMOOCsで興味のある学習コンテンツを見たり、スカイプ英会話でフィリピンの先生と好きな時間に話しをしたり、無料のプログラミング学習サイトでウェブサイトの作り方を学んでいます。

つまり、学習意欲さえ高ければ、何かに頼ることなく、好きなだけ徹底的に学ぶことができるようになったといことは、EdTechイノベーションの大きな特徴のひとつだと思います。

また最近では、CやDの上位層に対してもEdTechは影響を与え始めており、テクノロジーの進化によりだんだん下位層まで影響がでてくると思います。ただ、やる気のない学習者に効くテクノロジーは現状存在しておらず、そこに効くのは、これまでの教育手法ではないでしょうか。

大事なことは、学習者の状況に応じて、薬のようにテクノロジーを使うことだと思います。 つまり、テクノロジーは「ロケーションや時間による格差」は埋めることができても、「モチベーションによる格差」は助長する、と考えられるのです。

■教育×ITのこれから(どうしたらEdTechは浸透するか)

教育分野および現場に活きるテクノロジーの進化は、日々止まることがありません。でもなかなか教育現場には取り入れられないまま。では、どうすればEdTechが浸透していくのでしょうか。

最近では国内外でEdTech注力型シードアクセラレーターやインキュベーターが急増し、サービスも数えきれないほど登場しています。EdTech分野の動きが活発になってきているのは、事実です。

これまでは教育現場の人間ではない、外部のいわゆる素人がイノベーションを生み出し、働きかけてきました。しかしながらこれからは教育業界、現場の内部の人間が生み出していかないと変わりません。必要なのは次の3つ、

  1. 制度を変える(教育者、教育現場への評価も含む)
  2. 現場の理解を上げる(現場にEdTechの認知・認識を浸透させる)
  3. やりたい人がやってしまう(教育業界独特の「お作法」を考えずに本当に良い物を追求して作って、見せてしまう)

と、佐藤先生は提言します。

…というわけで、もちろん本編ではさらに具体的で、面白くて、充実した議論が展開されていたわけですが、それは参加された方々の特権ということで、大まかな内容をまとめさせていただきました。

佐藤先生、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。 

2014/7/12 於:デジタルハリウッド大学大学院
講師:佐藤 昌宏さん
記事協力:鈴木 梢さん(ライター
撮影協力:田口 邦彦さん(野良ウサギのSCORM / Tin Canサイトオーナー)

※2014/08/08 EdTechMedia様に本エントリを寄稿しました。

※togetterに当日のつぶやきをまとめています。

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