「フィンスイミング日本代表から学ぶ、ビジネスで成果を出すための思考プロセス」 勉強会レポート

※20161204:講師の柿添さんからアンケートに対するアンサーをいただいたので本エントリ後半に追記しました。

今回のナレコモ勉強会のテーマは異色の「フィンスイミング*」。オードリーの春日(マスターズ大会日本代表)さんらも取り組んでおり、何かと話題を呼んでいる競技のひとつです。

*:足ひれを装着して行う水泳競技

今回は、2013年から今年まで4年連続で日本代表として活躍しており、大手出版社のビジネスマンとしても活躍している柿添武文さんに、競技者として、ビジネスパーソンとして、その両方で成果を出し続けている秘訣として、ビジネスの世界とスポーツの世界に共通する「成果を出すための思考プロセス」をじっくりお話しいただきました。キャリアデザインや、現在の職場で成果を出すためのTIPsがたくさんちりばめられており、もちろん議論は白熱、いつもながら定刻オーバーの第53回でありました。

【突然ですが、オリンピックに出たいですか?】

仮に、あなたが競技スポーツにこれから取り組むとしましょう。この問いには大抵「出たいです!」と答えるのではないでしょうか。さて、どんなスポーツを選びますか?

多くは、好きなスポーツを選ぶ…のかもしれません。でも、オリンピックですよ!勝ち進み、勝ち残らなければオリンピックには出られませんよ!しかも世界の強豪に勝たないとメダルはもらえませんよ!

【オリンピック出場を狙うための3つの視点】

となると、こんな視点が必要になると柿添さんは言います。

その1.「日本人の身体能力は元来、それほど高くないことを認識する」。身もふたもない感じがしますが、これが現実。たとえばスポーツに必要なある種の筋肉量などは、欧米人に比べて劣っていることが科学的に証明されています。となると、身長が高いことが要求されない体操競技やフィギュアスケートは日本人に適していて、バレーやバスケは勝ちたいなら不利、ということになります。

その2.「日本の経済力を利用する」。ちょっと誤解を生む表現かもしれませんが、世界にはまだまだ食べるもの、飲む水ですら十分でない国がたくさんあります。そんな中、プールにたっぷり水を張って泳ぐことのできる国、リンクに氷を張って競技する環境が常にある国はどのくらいあるでしょうか? となると、身体ひとつや、ちょっとした道具があれば行える競技よりも、装備や環境が必要な競技の方が有利ということになります。

その3.「競技人口が適度に少ない競技を狙う」。マーケティングを理解していれば想像がつきますね。オリンピック競技のうち、国内競技人口トップ3は、サッカー(888,916人)、バスケットボール(616,839人)、バレーボール(429,830人)。逆に最も少ないのは、近代五種(30人)、7人制ラグビー(2,000人)、ウェイトリフティング(3,496人)。

要するに、「勝てる場所」を見極めるのが重要ということ。

「すべての現実を知った上で、自分の身体能力と照らし合わせてどこで勝負するかを決めるべき」と柿添さんはおっしゃいます。好きだからその競技をはじめ、極めていく方も多いと思いますが、オリンピックを目指すレベルならば、また、お子さんをスポーツ選手にしたいのなら、という点ではシビアな視点も重要になるでしょう。

【柿添流、モチベーションの保ち方】

競技者でありながら、広告営業を担当するビジネスパーソンとしても活躍する柿添さん。月曜から金曜までは仕事(もちろんですが!)、退社後にはほぼ毎日約3時間の練習と、それはそれは忙しい毎日を送っていらっしゃいます。どうしてそこまで自分を追い詰められるのか、モチベーションはどうやって維持しているのか興味ありますよね!?

柿添さんのこたえはこんな風。

「モチベーションって、湧き水のように勝手にいくらでも湧いてくるものではないんですよ」

あくまで冷静です。そりゃ、人間ですから「今日はやりたくないなぁ」と思うこともあるそうなのですが、そんな自分の心の動きを把握した上で、意図的に予定を入れてしまう。「今日やると決めていたことは、何がなんでも絶対にやる!」ということです。

また、マイナー競技では、日本代表レベルであっても費用は自腹ということが多いそう。柿添さんの場合は、サラリーマン生活で得たお金を、フィンスイミングに投資していらっしゃいます。国際大会もありますので、出場する場合はさらにお金がかかります(世界選手権で勝っても賞金は期待できない)。

だからこそお金にこだわる。そのことを「サンクコストを利用する」とおっしゃっていましたが、いわゆるサンクコストではなく、「何がなんでもサンクコストとして扱わない、1円も無駄にしない!」という意味合いに近いのではと思います。

【勝つために、「諦める」タイミングを見定める】

最後に「諦める」ことについて語ってくださいました。

「日本社会はひとつのことをやり続けることばかりを賞賛しますが、自分が勝負出来ないと思ったら諦めて次の勝負を挑むことが大事だと思うんです。私があのまま競泳を続けていても、確実に日本代表にはなれていないし、こんな場所で皆さんにお話しをすることもなかったでしょう。諦める場所とここだと思ったら諦めない場所の見定めが必要だと思うんです」。

簡単にあきらめるのはどうかと思いますが、「諦めどき」を見極める能力も必須スキルと言えそうです。

貴重な練習時間を削って勉強会で講師をしていただき、本当にありがとうございました。競技者として、ビジネスパーソンとして、陰ながら応援しております!

柿添 武文さん

2013年フィンスイミング世界選手権(CMASGAMES)日本代表 2014年、2015年の日本選手権でも優勝し、3年連続日本代表に選出

http://kakizoe.minato.jp.net/

後進の育成のために、自身のトレーニング内容を毎日公開中 https://www.facebook.com/takefumikakizoe19821203

2016/11/25 於:株式会社D2C (記 山口)

20161204:柿添さんからの、アンケートへの解答

Q1.日本が国としてどのようなスポーツに力を入れたらいいのか?

柿添:難しいですね。「オリンピックでメダルをたくさん取る」ことを国として最優先とするならば、身体的に有利な体操や、フィギュアスケートなどの回転競技、あとは身体的要素があまり大きくなく技術要素が大きい馬術やアーチェリーなどにお金を投下すれば費用に対しての「オリンピックのメダル数」は増えていくと思います。

では、メダルをとることが難しい競技をやる必要がないのか?と言われれば私は違うと思います。例えばですが、100m走は今後モンゴロイドがメダルをとることは非常に難しいと思います。でも、ほとんどの競技において「短距離を速く走ること」は非常に重要な要素であり、今後は野球やサッカーやバスケなどの選手が陸上競技選手から学ぶという機会は増えてくるかと思います。

Q2.もし、フィンスイミングで成功体験が得られなかった時、どんな自分になっていたと思うか?

フィンスイミングでの成功体験はあまり関係なかったかなと思います。僕自身は成功体験が少なすぎて困ったという人生ではあまりなかった気がするので。ですが、この競技にチャレンジすると決めて行動したときに色々な学びがあったと思います。

なので、だめだったら他の場所でまたチャレンジしていた気がします。

Q3.アスリート視点のビジネスの見方を知りたいです。

柿添:失敗や負けを認めるのが下手な人が多いなと思います。何か新しいことをはじめてみたもののやはりダメだとわかったとき、そこまでに費やしたお金や時間のことを考えてしまいやめられない。つまり事業を畳むことを徹底しきれていないなと思うことは多々あります。サンクコストですね。こっちは本来の。

僕たちは1番になることを目標とするので、ダメならダメで割り切って次に行く。ということは当然やっているのですが、仕事だとそのままでも経営としては他の事業で成り立ってしまっていて、すぐにやめなくてもなんとかなる場合などに特に多い気がします。

Q4.大会に向けて自分のメンタルを研ぎ澄ませていくプロセスはどういうものですか?

柿添:メンタルを研ぎ澄ませていくという感覚はあまりありません。僕はどちらかというとメンタルが弱い方なので、試合前になって不安になってしまうことがあります。だからこそ、試合のその日までに出来ることはなるべくやりきるよう日々の生活をコントロールしています。自信を持って「僕が1番この試合に向けて取り組んできた」と思ってスタート台に立てるように。

あとは、レースの結果はレースの数分間というより、その前の準備段階で決着しているものだと思うようにしています。その場で過剰な緊張をしないために。

Q5.競技者として観客に伝わった、喜びを共有できたという感覚、経験はありますか?

柿添:ありますね。初めて日本新記録を出したとき、会場にいた本当にたくさんの競技者がレース中盤から僕の応援をしてくれていました(このレース僕が勝つと思われてなかったんです)。あと、SNSでの宣伝等をやってのぞんだ2014の日本選手権はレースをみて感動して泣いたと言ってくれた友人がいました。それはきっと、そのレースをするまでの過程をSNSを通して物語を作れたからだと思います。マスメディアがなくても自分で物語を作れるなと確信したきっかけでもあります。

Q6.今後のことについて教えてください。

柿添:これをたくさんの方からご質問いただいて、なんだか本当に嬉しいです。これからお前何すんの?なんてなかなか言ってもらえないので。

まず競技者としては来年のアジア大会でのリレーでのメダル獲得を狙っています。去年僕のせいで逃したので。リベンジしたいです。

あとは、サラリーマン×アスリートという形で歩んでいますが、本音を言えばアントレプレナー×アスリートになれればもっとかっこいいなと思っていたりはします。少し考えていることはありますが、難しいですね。この辺は得意な方がこの中にたくさんいそうなので相談させてください笑。

あとはスポーツの社会的な地位をあげることになんらか関われれば良いなと思っています。

重要なおしらせ

柿添さん、フィンスイミングの普及活動にも精力的に活動されております。そのご様子はこちらの「フィンスイミング日本選手権に観客を」というFacebookページ上で伺えますので、ぜひイイネをポチッとシてみてください。

単なる情報発信だけでなく、サポーター制度もおありとのことです。おもしろいリターンも設計されております。柿添武文さんのサポーター制度は法人・個人問わず、一口5,000円~参加可能とのこと!興味を持たれた方はぜひこちらのページで詳細をご覧ください!

※もちろんですが、ナレッジコモンズもサポーターにならせていただきます!

(追記:小室)

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