2018年のeラーニング業界を振り返る。

小室です。今年もeラーニング業界を振り返る時期がやってきました。

私自身eラーニング業界を離れてから数年が経ちますが、まだ付かず離れず、eラーニング関係のご相談やお仕事もいただいており、各方面から様々な噂話や業界動向を耳にしております、良くも悪くも。

で、毎年恒例のメンバーで、eラーニング業界の耳年増が集まり、くだを巻く2018年を振り返りました。

基本的には、業界今年はそんなに大きな変化なかったですね。おわり。

前提:eラーニング≠EdTech

毎年書いてますが、eラーニングは「法人研修のデジタル化によるコストダウン」の文脈で、EdTechは「テクノロジーによる文教分野(学校教育)の学習機会創出」だと考えています。市場が違うんですよね。

eラーニングっていう言い方がもう古い?

まあ、文教/法人や教育/学習それぞれの市場特性一切合財に目をつむり一緒くたに「EdTech」なんておしゃれだからと言ってしまうよりは、愚直に真面目に業界に向き合ってるとご理解ください。

では。

2018年のeラーニング業界サマリー

対話形式でサマリーします。

K:そろそろ、EdTechは文教/社会人向け、法人向けにEdTechとかいうのはナンセンス、が定着してくれればいいのですが、混同して語る方が多いですね。

C:そういう印象受けますね。社会人向けは英語学習しか話聞かないっす。

M:EdTechが「学習履歴の分析」に重きをおいているので、ある程度以上のボリュームを伴う体系化された学習カリキュラムにしかEdTechは使えないわけで、結果として学校教育と語学学習になってしまうわけですね。

会計士や司法試験といった資格対策くらいには使えるかもしれないけど。

ちょっと整理分類をしてみますと、こうなるかと。

学校教育は、教育自体が目的であり、教育をテクノロジーで分析しようとする。学校→何が何でもパンを食べたい人たち、パンを食べることが目的
法人企業は、教育の中に閉じていたのでは目的達成にならないので、もうちょっと広く捉えようとする。企業→パンがなければお菓子を食べて、空腹を満たすという目的を達成できれば良い人たち

K:本来は「パンの食べ方」を習得するのが学校、なんすかね?

M:一生涯使えるスキルという意味では、パンの食べ方もしくはパンの作り方を教えるべきだと思います。

ただ、今の学校教育は、目の前にあるこのパンを時間内に残さず食べろ、といって口に無理矢理押し込もうとしてる、そんな感じです。個人的には、知識詰め込み教育は必要だと思ってます。ベースとなる知識がなければ、考えることはそもそもできないしw

T:eラン(1次ブーム)とedtech(2次ブーム)を時間軸で区切れば、1次は「企業向け」で、2次は「文教」で明確になったかんじ?。個人向けは単に動画配信しているだけみたいな。

M:その切り方は分かりやすい。eランは、企業が自分でコンテンツを作るものだった。それじゃ学校は使えなかった。そこに、コンテンツを小1から高3まで揃えたサービスが出てきて、学校教育でも使えるようになった。

コンテンツが動画になることで、数を揃えやすくなったなんてことはあるのかな?

F:個人的に、スマホとタブレットPCの普及も大きいと思う。IT苦手な先生でもスマホとタブレットPCは結構使ってて、ITとの距離が近くなってる。

あと、やっぱり反転授業。これまでのeランは、OJTの流れで教師がけん引する必要はなかったけど、反転授業は「教室ありき」だから、教師にもイメージしやすいし、疎外感がないw

T:学校だとコンテンツより、授業を充実させるツールの方が多いですよね。

塾は復習が大事なので動画学習は一般に普及しているし。たんに知識を学ぶ授業にセンセイが教壇に立つ必要性に、社会が違和感を感じだしたら、もう一歩進化するのかなぁ?

アクティブにやる授業と知識習得の授業を明確にする必要がありそう。

いちおうEdTechも触れますが、テクノロジートレンドからみると衰退期にはいった?

xTechのトレンドは、教育から遠ざかって、FinTech、RegalTech、SleepTech、BabyTech等々、よりビジネスに近い分野に移っていった感がある…と、教育産業のすみっこにいる身としては思うのですが、世の中はまだそういうわけでもなさそうですね。

最近も経産省がなにやらEdTech系について言及していた記憶があります。

でもこれって「大学は社会人予備校ですか?」という議論の延長でしょうし、学業の本文とは一体?的な観念論に陥るなともおもいます。

管子(管仲)曰く「国家百年の大計」で、文科省も2020年の学習指導要領改訂にしっかりとしたビジョンを描いています。でもそれ民間の教育事業者はあんまり目通ししていない。

そういうグランドデザインを描かず、目の前のトレンドやテクノロジーに安易にのる産業界の教育へのスタンスはいかがなものかなー、とも思います。

なので色々EdTechについての議論はあるものの、そのうち下火になるでしょうね、もちろん言葉として残ると思いますが。

「EdTechは”喉に刺さった小骨”」だなという振り返りメンバーのコメントが言い当て妙だなと思います。三国志的に言うならは「鶏肋」かな。

仮想通貨案件でだいぶ株を下げたVCさん(個人的には好きなキャラクターなんですけどね)が「教育は今たしかにもうかっていない、だからこそベンチャーとしての参入の可能性がある」的なtweetしてますが、まあポジショントークですよね。ほんと、「だから?」で終わります。

2018年も「教育」と「学習」の違いをきちんと整理して理解・議論している人が、特にEdTech業界に極端に少なかった印象です。

ポリティカル・コレクトネスな印象で語る人多いけれど、それで実際にどれだけの人が学びを得られているのだろうか、はなはだ疑問です。

「学習体験=LX」なんて言葉も出てきましたね。

Web業界は右も左もUXですね。まあ私も言ってますが。その流れを意識してか、LXPなんて言葉がUSのeラーニング界隈で徐々に言われだしています。

議論の中をみるとそのまんま1990~2000年代初頭のeラーニングについて書いてるようなデジャヴを受けます。

HR業界は?

HR Tech来てますね。私は「eラーニング業界ははやくHR業界に飲み込まれるべき」派です。

で、なんで飲み込まれていないかというと、上述のVCさんがいみじくも指摘しているように「売上的にハネないものが多い」んです、教育。でもまあ最近は集合研修屋さんの上場などもあり、少しずつ光明がみえてきていなくもないかなと。

VR×教育は引き続き進展している感あり

VTuberも絡んできて、2018年は賑やかでしたね。

教育コンテンツに登場してくるVR系キャラは、パーソナルなニーズを汲み取れるようにならないとハネない?かもです。キャラに対する好き/嫌いが学習効果に影響でそうなわけで。

一方で、VRに関してなるほどー、と思ったのは、VRはオブジェクトに対するモーション情報と音声でデータが構成されているので、(動画に比べると)「データ量が少なくて済む」という点。そういうメリットがあるんだ、と思う一方で、再生playerの問題から動画ファイルにしてYouTubeにupとなると意味がない気もします。

ブロックチェーン×教育、なにか動き、、あった?

何いいたいのかよくわからない記事や、「やろうとしてます」というリリースは見かけましたが、実態としては「なにも動いていない」印象。

ビットコインでブロックチェーンが実用化されつつある状況で、次のビットコインのインフラ先を探すプラットフォーマーがスマートコントラクトに手を出すのはわかるけれど、eポートフォリオすら普及していない日本では教育のログや経歴をブロックチェーン上におくインセンティブを、誰がもっているのか皆目検討が付きません。

そういや文科省が「情報銀行」がなにやら言ってたな。

LADDER?なんじゃこりゃ。「学習ログを残すこと」がどういう価値を生み出すのか、それが誰のメリット・ベネフィットになるのか、という点が、UX屋としてこの界隈はまったくみえないので、どうにもこうにも普及するイメージが持てません。

もう少しUXリサーチにリソースとコストを投資したほうが良いと思います、この界隈は。

IoT×教育

「やる気ペン」のその後が気になります。CFのイベントあったんだ、行って様子を伺ってみたかった。どなたか関係者さんいらっしゃったら状況お教えください。

人材不足の動きについて

2030年に人材は不足から余剰に、という試算が三菱総研からでましたね。これは来るよねきっと。

そういうときに生き残れる人材になれるか、という点に関してeラーニング業界がやれることこそ、業界プレイヤーが一丸となって考えるべき取り組みだと思うのですが、そういう動きはナントカコンソーシアムからは一切耳にしませんね。

「マイクロラーニングの定義とはー」とか「品質の定義とはー」とか、それ今ディスカッションすることでなんの意義があるのかさっぱり理解できません。自称業界のトップランナーさんが集まってるなら、もう少し未来志向で物事を考えて頂きたく思います。

社会人は「日々の業務に直結するコンテンツ」じゃないと、学ばない。

国は「リカレント教育大事」だと言ってますが、リアルな生身の人間の大半は、「自分ゴト=近視眼的に眼の前にある課題」であり、それを何とかするため「ではない」学びにたいしては、私自身も含めて、なかなか食指が動きません。

そういう人間の心の機微というかあたりまえの情動を乗り越えて、「重要度:高、優先度:低」な学びに主体的に取り組める人って、パレートの法則以上にすくないんじゃないかなあ。

まあそもそも、企業の大半は「コンピテンシー」を定めていないので、そのコンピテンシーを満たすための学習が必要というモチベーションすら生じないわけで。だからハイスキル人材不足なんて記事が評判になるのですが、そもそもなにをもってして「ハイスキル」かがふわっとしていたら、そりゃ設問次第でどうとでもなります。

日本語教育関連の動きは活発。

アルバイト採用の文脈上で、コンテンツ作成相談は増えているみたいですし、udemyの日本語教育コンテンツは売れているらしいですねー。値付けが謎過ぎますけどね、udemy。

ところでLinc、面白いですね。解決したい課題が明確で、かつEXITまでしっかり練られているサービスで、ぜひ成功してもらいたいです。

まあ、インバウンド需要なども受けて日本語教育系サービスが活況なのはいいのですが、UXを考えられていないサービスが多すぎるのが残念。もう少しユーザーの観察と価値の整理すればいいのに。

動画教育はまだまだ伸びしろあり。

ネットデバイスがスマホに完全シフトして、デバイス横断を考慮すると、やっぱりVRではなく動画になりますね。YouTubeも後押ししてくれるみたいですし。日本でどうかはわかりませんが。

いまですよエデュチューバー!ってもう息してないですね。。

スマホで十分な画質の動画が撮れちゃいますからね、なので制作コストも下がってきていて、スタジオビジネスが今後どうなることやら(パンダとか)。映像制作会社が絵作りの文脈で教育コンテンツ作成の分野に参入してきてたりと、制作現場は2019年大変そうです。

そういやMOOCsどこいった?当時礼賛しまくってた方々は?

ピープルアナリティクスはeラーニングとコラボレーションが生じやすい、とてもおもしろい分野。

企業にとっての実用性という観点では、ピープルアナリティクスは伸びしろがとてもある分野で、ピープルアナリティクスの分野から、eラーニングの学習履歴(データ)の活用が重要度をまさないかなー、と考えています。

というかそこでちゃんとプレゼンスをeラーニングが示せないと、業界はまた5年10年と「現状維持」になるんじゃないかなくらいに思っています。

こういう議論はeラーニングの学習履歴の延長線上で生まれていれば、まだまだ業界の未来は明るかったと思いますけどねー。

C2C系教育サービスの死屍累々

体験価値や提供価値からでなく、頭で生み出されたサービスの死屍累々が目立ちました。

これらの学習サービスの失敗って、社会人は「教育」という名目には対価を払わず、「コミュニティへのアクセス権」に対価を払う形の方がマネタイズしやすい、ということなのかなぁと思います。要は「どこの誰かわからない人にはカネを払いたくない」わけで、C2C系だと「お前誰よ」になり、例えばグロービスや日経だと「あの」となる。
教育についてはブランド信仰心が厚いんでしょうね、日本人。

教育ビジネス界隈の2018年に一言。

LifeIsTech

テクノロジア売れているかな?個人的に頑張ってほしいサービスです。

KDDI、キッザニア買収

ぜひオッサニアも作って。それでこそのリカレント教育。

スクー

オンラインサロンのプラットフォーム?儲かってる?息してる?営業電話かけてきたインターンが残念すぎたのであんまりいい印象ない。

ストアカ

頑張ってるみたいですね。

manabo

駿台に買収されましたねー。予備校系はブランドやっぱり重要。今後も淘汰の動きはありそう。

alc

フリービットに買収されましたねー。語学系どうなる?ロゼッタストーン息してる?

スタディプラス

学校系ではデファクトスタンダード化した印象。

グロービス

独自LMSなの?元気だわー。

eラーニングベンダーの2018年に一言。

プロシーズ

コンテンツからシステム屋にシフトした?eラーニング→採用などHR系にシフトした?

kiban

動画持ち出しNG&編集不可の販売プラットフォームってどうなの?

東芝

Generalistまだ頑張ってるみたいですね。大手どころが軒並み撤退しているなか、すごい。

SATT

良くも悪くも評判聞かなくなりましたねー。

各ベンダーがんばれ

ITリテラシに関するe-Learningを(仕事上)クリアする必要があるんだけど、所属・氏名を入力するページにSSLがかかっていない。
問題の中に「安全を確認できないWebサイトでは"個人情報"を入力してはならない」って問があり、俺はいま試されている。

— うみさま (@umisama) May 30, 2018

教材作成会社

エレファンキューブ以外にいいとこある?映像企画会社とかかなあ。

mLC(モバイル→マイクロラーニング)

「マイクロラーニングの定義とは?」みたいなことまだ話してるらしい。一体何がしたい団体なんでしょうね。くだらない。はやくHR系企業に取り込まれて駆逐されていただきたいところです。

NL社

相変わらず「ユーザー5000万」とか吹いてるみたいですけれど、Facebook以上のユーザーいるんですか?御社。

のべ契約数とかで、月のユーザー数カウントしてたりしてw。

自称「業界のフロントランナー」らしいですが、もう少し品のあるプロモーションを心がけていただきたいですね業界の品格として。

すでに自社内でも矛盾生じちゃってるみたいですし。

まとめ

eラーニング業界自体が鎖国化しているような印象が強まった感がある2018年でした。で、その開国を迫るのがEdTechなのかなと思われてるようですが、文脈や背景が実は違いすぎるので、すれ違いが多い。そんな中で、2018年のトピックスとしてでてきた「ピープルアナリティクス」、これは、eラーニングの「学習履歴」を活用して企業・ビジネスの伸長に貢献できる考え方かな、と思われました。機能をうたうベンダーは多いけれど、成果をうたえるベンダーが少ないため、成果により近いところで企業内部を見ているHR業界は、もっとeラーニング業界を食ってしかるべきではないかなー、と思う次第です。

でもまあ、VCさんが言っているように、儲からないからなぁ、教育は。…という思い込みを、ぜひとも覆していただきたいところです。上場初日に全力2階建てに掲載されてしまった研修屋さんなどもぜひ頑張ってください。

そして締めは恒例のふぐ、四ツ谷の「しほ瀬」へ。あいかわらず旨い。

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