「アートが限界を超える。」勉強会レポート

サブタイトル:「越後妻有アートトリエンナーレ(大地の芸術祭)」に学ぶ、企業や個人のこれからのあり方とは?

日本有数の豪雪地帯として知られる新潟県と長野県の県境に、「越後妻有」はあります。200の集落が点在し、棚田の稲作で生計を立てる越後妻有は、かつて、過疎化と高齢化が進み社会生活が困難なレベルに陥る限界集落と言われた地域でしたが、この里山は「アート」を突破口に見出しました。

そしてさらに、「アート」を介した地域づくりに「現代の企業や個人が抱えている限界」を超えるヒントがありました。

今回の勉強会では、人と自然との距離感を取り戻し、アートを介した地域づくりで変革を遂げた「越後妻有アートトリエンナーレ(大地の芸術祭)」の挑戦に迫ります。

限界集落という地域に重くのしかかる課題を解決するために、「アート」をきっかけとした町おこしをする。「アート(芸術祭)」を旗印とすることで、国内外から人が集まり、関わる人をしあわせにし、地域全体が活性化する。継続することでさらに良くなっていく。そんな、越後妻有で2000年からつづいている芸術祭のケースを、NPO法人越後妻有里山協働機構 事務局長の関口正洋さんにお話しいただきました。

関口さんには越後妻有の変革に欠かせない、2つのポイントをお話しいただきました。

ひとつは、できるだけ外来者を呼び込み地域の人とつながること。

もうひとつは、つながる過程でコミュニケーションを尽くし、理解のギャップや反発を超えること。

ビジネスにおいても、ある時点での成功より、それを継続させることこそが難しい、と言われます。成功しつづける、限界を超える普遍的なヒントが、越後妻有の事例から何らか見いだせるのではないでしょうか。

もう少し深く紐解いていくために、「越後妻有アートトリエンナーレ」の6つのチャレンジをご紹介します。アートを介した地域づくりに「現代の企業や個人が抱えている限界」を超える何らかのヒントを見い出していただければ幸いです。

1.美術館のアートとしてではなく、「里山と雪のアート」は成立するのか?

何かを持ち込むということではなく、その場で成り立つものをつくる、他者の土地にものをつくることが求められます。自分の土地や美術館なら自由にできるかもしれませんが、そうもいきません。持ち主や、周辺の人たちの了解が必要で、そこには当然反対や批判があり、そのプロセスをどう克服するかが重要になります。アーティストが求めるものと、さまざまな周囲の感情とのあいだに折り合いをつけ、乗り越えるためには「コミュニケーション」が重要になります。

2.サイトスペシフィック、すなわち場に根差した表現は可能なのか?

どこに置いても同じように見える作品ではなく、この場所、この一瞬の状況を反映し、場の力を汲み上げながら成立させる作品である必要があります。

3.時間の形象化、すなわち土地の歴史を汲んだ表現は可能なのか?

たとえは廃校を使ったアート。廃校にかつて流れていた時間を甦らせる必要があります。その土地に生きてきた人々の魂や記憶を喚起し、再生させるチャレンジも重要な着眼点のひとつでした。

4.地域・世代・ジャンルを超えた協働が可能なのか?

作家からの提案をどう理解して、実現させていくのか。一つひとつの作品をつくりあげる過程には、多くの専門家や土地の人が関与します。そこには苦労もありますが、異質の人同士が協働するからこその、大きな収穫も期待できます。都会の若者を中心とするサポーター「こへび隊(ある種のボランティア)」がさまざまなギャップを埋める重要な役割を果たしています。

5.あるものを活かし、付加価値をつくりだすことは可能なのか?

空き家1,000戸。廃校10校。こうした有形資産は、放っておけばいとも簡単にマイナスの資産になっていきます。取り壊すにも資金が必要になります。そこを発想の転換で、マイナスをプラスに持っていく廃校アートを企画する。作品として成立させるだけでなく、たとえばそこでカフェが経営されるなど、アートが新たな雇用を生む原動力にもなりつつあります。

6.生活と芸術の交流、たとば「農業」でどれだけの人を惹きつけられるのか?

越後妻有にはたくさんの有形・無形資産があります。たとえばこれまでずっと生活に根ざしてきた棚田の農業。棚田のアートを観に訪れるだけでなく、農業をテーマとした施設をつくり勉強する機会をつくる。都会の人たち向けに「棚田オーナー」を募集する。農業はその土地の人が行うもの、という常識を疑い、現代の人々に合う形に転換させる。ここにもイノベーションのヒントを見いだせるかもしれません。

会場との議論も活発に行われ、今回のテーマへの皆さんの関心の深さがうかがえました。

中央が講師の関口さん、その左にいらっしゃるがコクヨファニチャーの山下さん、お二人に感謝。

感想・コメント

感想1

アートはなぜこうも影響力の強いものなのか?もっと知りたかったです。

感想3

地域住民の為に開催するイベント。としての「アートイベント」であるなら、「人と人とをつなぐ」音楽やスポーツのイベントとの差別化が難しいのではないだろうか。 また、今回で最後の開催となった場合は、屋外に半恒久設置されている作品は どうなるのかなと思った。

感想4

率直におもしろいことをやられているな、というのが感想です。 悲喜こもごもいろいいろあろうかと思いますが、頑張っていってもらいたいです。

感想6

NPOってほんとにやっていけるの? あと、ARTで人を繋いだり、地域を活性化させたり、自分のなかにはない発想だったので斬新でした。

感想2

地域活性にアートをどう活用したのかを、苦労された点を含めて伺えたことがよかったです。周囲の巻き込みについては、本当に泥臭く日々苦労されたことが、とてもよくわかりました。

感想5

日本の地域活性化には、地域に外部・都市部の人間が入っていくことが重要というのは殆どの人が認めることですが、実際に地域にどっぷり漬かることができる覚悟や条件を持っている外部の人間はごくわずかです。私は、地域と外部の人間のゆるい、うすい繋がりを長期間にわたって形成することが大事だと考えています。そのツールとしてのアートの魅力を感じると同時にアートを万能薬として考えてはならないことも認識しました。

2012/7/3
於:コクヨ株式会社品川エコライブオフィス
講師:関口 正洋さん
略歴:東京大学医学部健康科学科卒業。大手金融会社を経て現職。NPO法人越後妻有里山協働機構事務局長として、「大地の芸術祭」に向けたアーティストと地域のコーディネート、棚田・空き家の保全活動などを行う。

本勉強会は、「働くしくみと空間をつくるマガジンWORKSIGHT」とKnowledge COMMONSのコラボ企画でした。

WORKSIGHTは、コクヨ株式会社が企画発行する、働く環境を考える企業キーパーソンに向けたワークスタイル戦略情報メディアです。企業が抱える経営課題に「働く環境(=空間インフラ+制度インフラ)のリデザイン」という視点からアプローチしていきます。

年2回発行の紙媒体【MAGAZINE版】と、随時更新のインターネット媒体【WEB版】の2つのメディアで主に展開しています。また、編集部が主催するイベントとも連動して、「働く環境を考える企業キーパーソン」のコミュニティ作りも目指します。
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