「人を活かし、組織を良くする『ピープルアナリティクス』入門」勉強会レポート

平成最後のナレッジコモンズは、「ピープルアナリティクス」に関する研究・実践の最前線でご活躍中の、データアナリスト・ピープルアナリスト 大成弘子さんにご登壇いただきました。

興味はあるけれどなんだか難しそう…と、そんな雰囲気を察してか「今日は難しいアルゴリズムの話はしませんよ!」と大成さん。その言葉に勇気づけられ勉強会がスタートしました。

ピープルアナリティクスってなに?

直訳すると「人に関する分析」。学問的な定義は確立されていないようですが、大成さん流にもう少し分かりやすく表現すると『働く人々を幸福にする分析』となるのだそう。

▽良い人材が採用できない
▽すぐに辞めてしまう
▽機能しない

といった人事の3大課題についても、『働く人の幸福』という視座に立って見つめ直すと、従来とは異なる解決の糸口が見えてきます」と大成さんは指摘します。

アナリティクス=データで語ることの重要性

人に係る評価はどうしても主観的になりやすく、定型化しづらい側面があります。だからこそデータとして知覚できるようにして、データの意味を読み解くことが重要になります。

また、分析のための分析では「手段を目的化」しているだけで、「働く人の幸せ」にはつながっていきません。だからこそ「分析し、それを基に組み立てたプランを実行し、結果がでるところまで見届けたい」というのが大成さんの想い。すごく優しい視点をお持ちだと思いませんか?

ここで、「データの説得力」とはどういうことなのかについて見ていきましょう。

「幸福度の高い従業員が多い会社は生産性が高い」という説があります。想像はつきますが、それって本当?どのくらい生産性があがるの?という疑問に答えることはできません。一方、人事や心理学方面で著名なリュボミルスキー氏の「幸福感が⾼い社員は平均で⽣産性が31%、売上げが37%、創造性が3倍高まる」というデータを示されたらどうでしょう?

社員を幸せにする理由が明確になり、施策の検討にもつなげやすいですね!

ピープルアナリティクスのケース

たとえは、ビジネスの現場でも頻繁に使用される「ありがとう」ということばについて分析したケースをご紹介します。

エンゲージメントの高い社員、低い社員ともに同じ数の「ありがとう」が発せられましたが、その「質」に違いがありました。エンゲージメントの高い社員が発する「ありがとう」には「〇〇について助けてくれて」「〇〇さんのおかげで」といった風に個別具体的なストーリーがありました。

一方、エンゲージメントの低い社員が発する「ありがとう」は、単品のことばとしての「ありがとう」のみ、言うならば「ビジネスライク」なやりとりのみという結果でした。

こうしたことがピープルアナリティクスによって知覚化されてくるのです。

ピープルアナリティクスのためのツール

ピープルアナリティクスにつかえる計測ツールはいくつかありますが、大成さんのオススメは「Q12(キュートゥエルブ、参考記事)」。

Q12とは、⽶国の調査会社ギャラップ社が開発した12問で構成されるアンケートで、従業員エンゲージメントについて定量化できるツールです。「あてはまる5点」〜「あてはまらない1点」で回答してもらい、その結果を分析すると、人材の配置や個人の能力開発などに関するヒントが見えてきます。たとえば「この部署でイノベーションを起こしたい!」というチャレンジがあるとしたら、こうした分析結果から「次にどういう人を採用したらいいか」、といったことが明らかになるそうです。

Q12の具体的な設問は以下の通り。

  1. 職場で自分が何を期待されているのかを知っている
  2. 仕事をうまく行うために必要な材料や道具を与えられている
  3. 職場で最も得意なことをする機会を毎日与えられている
  4. この7日間のうちに、よい仕事をしたと認められたり、褒められたりした
  5. 上司または職場の誰かが、自分をひとりの人間として気にかけてくれているようだ
  6. 職場の誰かが自分の成長を促してくれる
  7. 職場で自分の意見が尊重されているようだ
  8. 会社の使命や目的が、自分の仕事は重要だと感じさせてくれる
  9. 職場の同僚が真剣に質の高い仕事をしようとしている
  10. 職場に親友がいる
  11. この6カ月のうちに、職場の誰かが自分の進歩について話してくれた
  12. この1年のうちに、仕事について学び、成長する機会があった

大成さんによると、「幸せ」を実感するには、「宝くじが1回あたる」といった一過性のものよりも、「毎日ご飯がおいしい」というような、一貫した小さな幸せが継続することの方が重要なのだそうです。

これをビジネスに置き換えると、一過性の幸せは「インセンティブや昇進」など、小さな幸せの継続は「裁量が発揮できる仕事を継続的に任される」ことや「上司や同僚からのフィードバック」などが当てはまります。

こうした仕組みを知ると「意図して幸せをつくる」こともできそうですね!

参加者のコメント

  • 感覚で感じていたことが、全て数値で証明されていると知れすごく良かったです!
  • 個々人の特性は変わらずとも、相関関係の中では立ち位置が変わると言うことは、もっともな事だなと思いながらも、データから読み解くと言う手法で腹落ちしました。これまでも人事関係のアンケートやその解読手法などを見てきましたが、そのデータの正確性と有用性について疑問視してきていました。大成さんのお話をお聞きして、人材の行動を追いかけて、点と点が線になり、線と線が面になり、そしてその意味を深く考察することで立体的となり施策の方向性が見えると言うことを感じました。同時にこの概念が大手コンサルあたりが変にコモディティ化し、誤って運用されなければいいなと感じました。
  • ピープルアナリティクスが「幸福」を目的としていること、幸福に定義を置き、それぞれのアプローチの仕組みを追求していることが知れてよかった。幸福を「感情」と置いて考えていましたが、もっと奥行きがある気がして、そこをもっともっと追求したい。
  • ほんとに全部よかったです。特にモチベーション理論の話やマルチモーダルの話はハっとさせられるものがありました。定量的なものと割り切ってしまっていて、ある意味抽象概念に留めておくことで、目を背けている/気づかない現状は往々にしてあるなと思い、視座を高めていこうという次第です。
  • 最後の質疑応答で出た「ROI」が導入のネックになるので、定量効果の事例もあると、今後の普及にはずみがつくのではないかと思いました。
  • まだまだ組織は改善の余地があるのだなというのを感じワクワクしました。
  • People analyticsの考え方と具体的な活用事例が知れてよかった。エンゲージメントとパフォーマンスが相関があることについては、前提とするのではなく、個別の事情を考慮して検証する必要が、毎回あるのではないかという点は気になりました。
  • エンジニア職はコミュニケーションがハブ型でもOK、営業職はスター型がよい、というお話は、言われてみると「そりゃそうか!」ですが、職種によって「パフォーマンスが上がるコミュニケーションの型が違う」というのは驚きでした。

グラレコ

今回は参加者さんが自発的に描いてくださったグラレコを共有します。中谷さんありがとうございました!

今回の参加者は組織で人事に携わっている方が多く、限りある時間をめいっぱい使って質問が飛び交う、インタラクティブな勉強会になりました。大成さん、本当にどうもありがとうございました!(山口)

小室の所感

大成さんのピープルアナリティクスの話を聴いたのは、友人に昨年招待していただいた勉強会が初でした。

そこでは私の理解がほぼほぼ追いつかなかったものの「こりゃ面白い分野の取り組みだ」ということだけは心に残り、ナレコモで話していただくことを依頼・快諾してもらい、開催に至りました。

改めてピープルアナリティクスを学ばせてもらうと、「幸福のため」という文学的・定性的な目標に、定量データを「そもそも何を、どのように計測するか」から考える必要がある、柔軟で、幅の広い、取り組みがいがとてもありそうな分野の話でした。

ウェブアナリストの末席にいる身としては、ピープルアナリティクスの考え方は理解できたものの、では実践でどうすべき、という点においては、まだまだ先が長そうであります(そもそもミッションが異なるという点もありますが)。

しかし大成さんはいつも面白い先進分野を見つけては解きほぐしていらっしゃるなぁ。

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