VR元年といわれた2016年から3年が経ちました。VTuber(バーチャルYouTuber)と呼ばれる人たちを見かけるようにはなりましたが、まだそれほど広く普及しているテクノロジーではないかもしれません。ポケモンGOなどのエンターテイメント領域のコンテンツが目立ちますが、実は企業研修など教育の分野でも成果を上げています。
こういった「VRの最近」の話を、VR専門のコンサルティングを営んでいらっしゃる V ROOM 代表の川村浩貴さんに伺いました。
改めて、VRとは?
Virtual Realityのこと。日本語では「仮想現実」と略します。コンピューターによって作られた仮想的な世界を、あたかも現実世界にいるかのように体感できる技術のことを言います。VR体験では大抵の場合、「ヘッドマウントディスプレイ」というデバイスを頭に装着します。
VRにも色々あり、たとえば、ヘッドマウントディスプレイを付けて、VR上で行きたいところに行くという体験が可能になるVRをMixed Reality(MR)、おなじみのポケモンGOはAugmented Reality(AR)に分類されます。
ポケモンGOでは、ポケモンとその仲間たちが、スマホの画面を通して目の前の風景にいるかのように表示されます。ポケモンが目の前に現れたような感覚が体験できるのです。「夢か現(うつつ)か」を地で行く世界観でしょう。
ビジネスにおけるVRのニーズ
たとえば、飲食店の現場。日々、ものすごいスピードで「オーダー→調理→お客さんに提供→会計」を繰り返し、混乱と混迷が起きていることが想像できるかと思います。川村さんは以前、長く外食産業でご活躍されていたそうで、「まさにカオスな現場!!」だと説明されていました。徹底的な現場主義をとる業界であるせいか「教育ができる人材が少ない」というのが飲食業界の特徴だとのことです。教育といえばOJT、先輩から徹底的に仕込まれるやり方で。そんなイメージかもしれません。
でも、先輩にも正直、デキる人とできない人、教えるのが上手な人とそうでない人がいます。とすると、ヒトに依存しない教育が必要ということになります。その解決策のひとつがVRということです。
教育研修におけるVRの価値とは
川村さんは、VRの価値について端的に述べるならば、「従来の情報伝達の順序を変えること」だといいます。
VRを使うと、知識よりも「共通のイメージやコンセプト」が先に共有でき、そのあとに現場で必要になる様々な知識がついてくる、という流れになるのだそうです。一方、従来型の研修はまず知識、それを積み上げてイメージやコンセプトを共有する、という流れです。
知識を積み上げて出来るようになる、のではなく、結論を抑えて各論は後からインプットするということが、VRで可能になります。
何となく想像できると思いますが、VRを通して観る世界には「強烈なリアリティ」があります。そのため、VRを使った教育は、実体験として深く記憶残ります。それによってユーザー(研修を受ける人)満足度も飛躍的に高まるのだそうです。
VRの具体例 ~ウォルマートのケース~
米国の流通大手「ウォルマート」は以前から教育にVRを導入していた企業のひとつ。たとえばこんなコンテンツを提供しています。
「広く混雑した店内でカートに立っている小さな女の子がいます。良くある光景で、楽しそうにしていますが、今後起こり得る危険として、どんなことが考えられるでしょうか?あなたがこの現場に直面したらどうしますか?」
この状況を、ヘッドマウントディスプレイを装着し、今、まさに店舗に立っているような感覚でいる新入社員とトレーナーが、その空間を共有し、1対1で学びます。座学では得られない「ヒヤリ」とする経験や、危険を回避できた「達成感」が得られそうです。
実際、VRを使った研修は、通常のトレーニング(動画+マニュアル)と比較して大きな効果がありました。
- 従業員70%のパフォーマンスが改善された
- 従業員満足度が30%向上した
- 特殊な環境(特売、イベント等)への準備ができるようになった
- 主観的な視点(=感情を伴う)でトレーニングを行えるようになった
VRコンテンツの開発にはコストがかかりますので、現状では大手企業のような資金面で体力のある組織でないと実現が難しく、その点はネックになりそうです。
VRの今後の可能性について
たとえば、現場で社員がどんな行動をとっているのかをデータ化し、それをVRコンテンツに落とし込むようなものができれば「現場に即した」研修が可能になります。
また、企業内で良く起きていることとして、「戦略を考える人」は現場のことがわからず、「現場の人」は戦略への理解が不十分、といったことがあります。そこにVRが介在すれば、両者のイメージ共有がしっかり出来てきます。
また、多くの部署の人が関わる新規事業の立ち上げの際にもVRが有用と、川村さんは指摘します。利害関係の異なる人たちが関わるせいで、「総論賛成、各論反対」になりやすく、コントロールできないと結局、空中分解ということにもなりかねません。画期的なアイディアであればあるほど、こうしたことは起こり得ます。VRを使うと、イメージやコンセプトを先に共有することができますので、関係者が同じ方向を向くことができ、さらに課題も明確になるといったことが考えられます。
具体例では、たとえば「介護業界」。需要が急拡大の一方で人手不足。ノウハウは個人が持っているのみ。こんな状況です。現場で何が起きているか、最大公約数的な部分をデータ化し、教育に利用する。教育には現場のリアリティが必要になりますので、VRという手法を使うことが有用な手段と考えられます。そう、常に新入社員がいる状況でも「人に依存しない」、高質な教育が可能になるのです!
数名の参加者さんに実際にVRを体験していただきました。
参加者の声
FeedBackにVRが有効だということや、VRの基礎的な技術(3、6dof)が知れて良かったです。
投資が先行してしまっているVRの現状や、VRビジネスの現状、今後の活用の可能性についてお聞きできてよかったです。
率直に言うと、VRの9割はエンタメという状況は今後も変わらないだろうと思いましたが、まだまだ面白いビジネスチャンスがいっぱいありそうです。
コスト問題について触れるコメントも多かったですが、10年スパンで考えれば、さして大きな問題になるとは思いませんでした。
B2Bでの活用も今後広がっていくと、働き方改革などの社会課題解決への貢献になることと思いますが、エンターテインメントという先入観の払拭が最初の障壁だと思いました。
VRについて、ビジネスと結びつけた形で学ぶ機会はとても貴重なものでした。川村さん、どうもありがとうございました!
(山口 記)
小室の私見
2年くらい前にリリースされた「工事現場の事故をVRで体験」コンテンツをだいぶ以前に知っていて、「たしかにVRは教育(特に企業研修)をかえるポテンシャルを秘めているな」と思っていたのですが、現実はまだまだ追いついていないのだなぁ、という確認ができてしまいました。とはいえ、3年が経過して、実際に導入するにあたってのノウハウも徐々に知見としてたまりつつあるようにも感じました。そうなると川村さんの出番がますます増えるのだろうなぁ、と考えると、今あらためてVRの現在地点を学べて、とてもとても良かったです。
個人的には、オキュラスクエスト(Oculus Rift)の次にくる自立型VR機が、普及を目指してどれくらい廉価になるかが一つのマイルストーンかなぁ、とみています。それは、買おうかと。
改めて、川村さん、ありがとうございました!