「AIサービスのつくり方」勉強会レポート

久しぶりの山本さんのご登壇、今回は弁護士として、というよりも、リーガルテック系AIベンチャーの創業者としてご登壇いただきました。

AI-CONとは

「契約書をアップロードすると、契約内容が自社にとって有利か不利かを条項単位でこまかく判定してくれるサービス」です。「弁護士ならではの、弁護士にしかできない、AIサービスを立ち上げる」という山本さんの強い意思のもと、構想から約1年半で正式リリースに至りました。

AI-CONの仕組みは、「今は」現役弁護士によって、サービス独自のリスク判定基準を元に、アップロードされた契約書を全文チェックし、条項単位で「自分たちに有利」「不利」という判定だけでなく、「こういう条文に変更する調整をしてみては?」という文例提案をフィードバックしてくれます。

契約書業務に携わる人ならおわかりいただけるでしょうけれど、かなり驚異的なサービスです。

現状、AI-CONが「AIサービス」という認知をされていることもあり、「プログラムが判断するのは不安」といった声も一部ではあるそうです。ですが、現時点ではAIによる自動判定ではなく、現役弁護士によるリスク判定で「将来的に」AI化してバージョンアップする、という構想のサービスです。

AIサービスの立ち上げ期

山本さんは、サービス立ち上げ段階でいきなりプロトタイプ開発から取り組むことはせず、まずはサービスの構想をきっちりじっくり細部まで練り込み、多くの方とのインタビュー・ディスカッションを通じて、サービスの可能性を探ることからはじめられました。

実は、この段階ではわりとネガティブな声が多かったそうです。起業に関するノウハウがだいぶ普及してきている昨今、新サービスを立ち上げるにはユーザーの課題解決という視点が必要で、その課題に関してユーザーが実際に「ペイン=痛み」を感じているか、そのペインは具体的にどこにあるのか、開発しようとしているサービスはそのペインを本当に和らげるものなのか、といった観点から、山本さんの構想サービスをやや疑問視するような声がわりと多かったそうで。

普通の雇われ新規ビジネス企画担当であれば、この時点で断念するところかもしれませんが、山本さんには、山本さんにしか見えない「将来的に、法曹界隈にAIがあたえるインパクト」がすでに見えているようで、それらネガティブな反応も踏まえつつも、「それでもAI-CONで弁護士業務のイノベーションを実現する」という強い意思のもと、構想を深掘りし続け、プロトタイピング開発へと進みます。

AIサービスの開発期

そもそもAI-CONは、サービスのスコープを「人力→アルゴリズム化」と割り切っていたことから、プロトタイプ開発は、いきなりアルゴリズム開発に着手するのではなく、投資家やエンジニアとのコミュニケーション上で「どういうサービスなのか」を説明しやすくするために、ユーザー画面だけをまずは安く作り上げてみる、というステップを踏んだそうです。

プロトタイプ開発でイメージの具体化に拍車がかかり、事業がドライブしはじめたことから、本開発にフェイズが進みます。

ここでは「外注」か「内製」のどちらで進めるか、という葛藤があったそうです。Webサービス事業者はやはり開発チームを内製化することが理想で、でも内製化するにはエンジニアの確保が必須、でもエンジニアからしてみたら「技術を知らないボスしかいない」という状況のチームにJOINするのは勇気がいる、、、

こういったジレンマを解消できたのは、やはり「人脈」だったそうです。

実際にベータ版として動くものが見えてきた段階で、再度ユーザーインタビューに臨みます。そこでは「“自分がつかうかどうかはわからないけれど”イイネ!」という声が多くあったそうです。ベータ版の前段階でインタビューをするべきだったのか、それともインタビューの仕方に問題があったのか、正解はわかりません。

リリース期

そうした様々なハードルを一つ一つクリアしていき、2018年4月に正式リリースへとたどり着きました。リリースはTechCrunchに取り上げられ2000以上シェアされたことを皮切りに、ランサーズやコワーキングスペースとの提携など、様々なチャネルの開拓を進めているそうですが、その開拓は地道な営業活動によるものだそうです。

まだまだ誕生段階、利用拡大のためには既存機能の改善や新機能の開発、チャネルの拡大、マネタイズの多様化などなど、様々な課題が山積みです。

ですが、強い意志のもと多くの課題をクリアしてきた山本さんが率いるAI-CON、これから出てくるであろう課題もきっと乗り越えていくのだろう、というワクワク感がはんぱないです。

今後がとてもとても楽しみなサービス、みなさんもぜひご利用してみてください。

AI-CONのサービスサイトはこちら

グラレコ

参加者からのコメント(抜粋)

  • AIサービスとのことだったが、現在は教師データを蓄積するPhaseで、実際は人力で行っている、という点が、機械学習の使い所をしっかり理解されているが故にできる判断であり、その割り切り方がすごいと思いました。
  • システム開発を外注するか内製するか、その葛藤はさもありなんで、その葛藤をクリアしていったプロセスや考え方は山本さん独特のアプローチで参考になりました。

主催のコメント

山本さんが構想を練りはじめたころから色々話を伺っていましたが、サービスとしてリリースされた現在、当時を思い返してみると、大きくブレていらっしゃらないことが驚きました。

投資家からは「ペインが見えない」という指摘が多かったとのことですが、サービスとしてはプロダクトアウトでも、独占業務である法律業務は、その中心にいる弁護士にしか見えないペインがあるのだろうと推察します。

また、今回の企画としては「AI」サービスのつくり方が話の中心になるかなーと思っていましたが、蓋を開けてみたらAI「サービスのつくり方」でした。しかも、よくある「思い込みからつくっちゃって爆死しそう」的なスタートアップのアプローチとは真逆の、ユーザーインタビュー=ユーザー理解を中心とした、UXデザインLikeなサービスデザインプロセスで、このままAI-CONは(色々生じるんでしょうけれどそれらを乗り越えて)弁護士業務のイノベーションを実現していくんだろうなあ、と大きな期待を抱いた次第です。

山本さん、ありがとうございました。(小室)

20180517
AIサービスのつくり方 ~弁護士が挑む業界のイノベーション
講師:山本 俊さん

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